土曜日, 9月 1

ローマ人の物語 パクス・ロマーナ

副題としては、確かに(結果として現出した)“パクス・ロマーナ”でも間違いではないし、そのほうが(知名度のある言葉だけに)分かりやすくて読者の受けも良さそうではある。しかし実際にページが多く割かれているのは、その経緯や過程におけるアウグゥトゥスの考えや労苦についての記述であることから、たとえば“帝政の成立”みたいなタイトルのほうが、より正確に内容を反映したのではないかと。
「帝政への移行」と聞けば、どうしても銀英伝ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムが思い浮かんでしまうのは仕方ないけど(苦笑)、あれはテーマを明確に伝えるという意図ゆえに、かなりアレンジ(あるいはデフォルメと言うべきか)した描き方をされているのであって、現実世界の背景はそれほど単純では無かったことが分かる。つーかルドルフの、(さまざまな意味においての)民主制の衰退に伴って湧き出た英雄待望論に乗っかる…という図式は、むしろ20世紀の独裁者に近いものがあるな。
一方のアウグゥトゥスは、“王制に対しては深刻なアレルギーがありながら、制度疲労に陥った共和制にも期待できない”というアンビバレンツな思いを抱えているローマ市民の心情を的確に察し、長い時間をかけながら慎重に少しずつ個々の制度を改めることによって、“表面的には共和制の維持を取り繕いながら、実際には皇帝が全権を掌握する帝政にシフトする”という、とんでもなく面倒な手法を(カエサルの轍を踏むのを避けるためには)取らざるを得なかったわけで、こちらの方が大衆の心理としてもリアルではある。



蛇足だが、肥大化した経済が政治を凌駕し(←「企業が政府を」ではないことに注意。あれは結局、サイバーパンク世代の夢物語だったのかねぇ…)、民主主義システムの限界をリアルに実感できる今の時代において、銀英伝という作品が古くさいと感じられるのは当たり前としても、ならば今の時代におけるリアリティを備えた“SF三国志”を構想するなら、どんな形になるだろうか?
まず統治形態についての対立は、政治レベルではなく、それより上位に位置するようになった経済と情報の流通を司る、インフラのあり方として争われるようになるだろう。すなわち、中央集権型(←かつての銀河帝国)を標榜する、古典的なメインフレーム方式と、権力分散型(←同じく、自由惑星同盟)である新興のインターネット(もしくはクラウド)方式との闘争だな。
あるいは、より卑近なところからアイデアを引っ張ってきて、ひとりの天才に主導される組織(Apple/銀河帝国)と、多数のメンバーに運営される組織(Microsoft/自由惑星同盟)が業界の覇権を賭けて戦う…というのもアリかも知れないが、さすがに安易すぎるか(苦笑)。
そして、それら両勢力とは異なる武器を用いて争いに加わってくる第三勢力(もちろんフェザーン)に該当するのが、ソフトウェア業界。経済至上主義を掲げたフェザーンの立ち位置を踏襲するのであれば、SNS系の中でも特にカネに目がない連中…つまり課金型ソーシャルゲーでボロ儲けしているような奴らというのが、イメージ的にもピッタリじゃないかと(笑)。

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