火曜日, 6月 25

ドルアーガの塔 FLOOR.31

【FLOOR.31】
モンスターロックデーモン(特殊)
宝物クロムの長剣(武器ポイント:6、ダメージ:4ポイント)
出現方法ロックデーモンを眠らせた後、引き抜く(下記参照)
階移動①北東の階段⇔32階(外周)
②クロムの長剣を抜く→32階(中央)

北の壁に沿って走る1ブロック幅の通路を除いた、東西8ブロック、南北7ブロックの大部屋すべてが、ロックデーモン1匹に占有されている。これは、単体のモンスターとしては最高クラスの占有率であり、40階のゴルルグ(東西8ブロック、南北6ブロック)や59階のドルアーガ(東西6ブロック、南北5ブロック)よりも広い。これを上回るのは、51階のアーマードスパイダーぐらいだろうか(←ただし、こいつに関しては正確な広さが記述されていないので、何とも言えないが)。
ロックデーモン自体が、小山のように巨大なのであれば説得力もあるんだろうけど、挿絵を見たかぎりでは──背中に刺さっているクロムの長剣と比較して──せいぜい5メートルといったところで、とてもこんな広大な部屋が必要とは思えん(笑)。まぁ“広さの感覚を現実に当てはめて考えてみると、明らかにオカシイ”というのも、本作においては特に珍しいことでも無い──それはそれで、どうかという気もするが(苦笑)──わけで、ここは軽くスルーしておこう。

ロックデーモンがいる大広間は門によって閉ざされており、これは門番だけにしか開けられない。もし24階で鉛板の通行証を入手していない場合は、先方の要求に従ってクイズに答えないと通してもらえないが、これは第1巻をプレイしていれば簡単に正解できる問題だし、たとえ間違えても金貨10枚を没収される(←3択問題だから、最悪でも金貨20枚で済む)だけなので、気軽に応じればよい。
それにしても、この門番って何者なんだろう…種族名が記されていないということは、普通の人間なんだろうか? これまで塔の中で働いていた人間といえば、大半が奴隷のような扱いを受けていた(←例外は21階の店主たちぐらいかね。18階にいた宿屋の主人は、人間かモンスターなのか判らなかったし)から、この門番のやたら明るい言動には、かなり違和感がある…じつは人間じゃなくてブラックエルフなんだと言われても、納得してしまいそうだ(笑)。
でも考えてみれば、恐らく──この塔内で人間が就けるものとしては──最高級にホワイトな職場だろうから、陽気な気分になってしまうのも分からない話ではない…ロックデーモンという最高の番人がいる以上、不測の事態なんて滅多に起こらないだろうし、すぐ上の階に行って泉の水を飲むだけで疲労も回復できるし、仕事が終わったら下の階にある酒場で一杯やれるとか、どんだけ恵まれた環境なんだよ!?(笑)
とはいえ、クロムの長剣が抜き去られてしまった件については、重い処分を下されたのではないかと推測…いや、あるいはゴルルグもギルたちを阻止するのに必死で、それどころじゃなかった可能性もあるか。そそくさと職務を放棄して(←そう言えば、ロックデーモンが暴れ出した時点で、もう姿が見えなかったっけ)どこかに高飛びしたとか。さもなくば生来のノリの良さで、うまく追及をはぐらかしたのかも?
そもそもコイツは、どういう経緯で門番の役職をゲットしたんだろう…剣を交えていないので不明だが、重要な宝物の実質的な管理を任されていたぐらいだし、ああ見えても実際は相当に腕が立つとか?(笑) もしくは逆に、剣には全く自信がないけど(どうせ不審者の撃退はロックデーモンがいれば充分だということで)言葉巧みにモンスターたちに取り入ったとも考えられるか。

門を開けてもらったら、いよいよロックデーモンと対峙することになる。初プレイ当時は、正解であるNAZLEの呪文を試したのは一番最後だったので、ずいぶん苦労させられた印象があるな…剣を抜くのだから、物体を引き寄せるNAEROの呪文だろうと思ったのに効果なし。仕方なく、この時点では名前しか分かっていなかったMAGNONAZLEを、入手した順番に唱えてみたところ、ようやく…という流れ。
なお、コイツに眠りの呪文が有効である事についての不満は、かつてVer.M/Wの制作記事においても記述しているため、ここでは割愛。

それでは、具体的な数値に基づいて検証してみよう。まず、ゲームを開始した時点における原体力ポイントは2d6+12(リメイク版では1d6+18)で、期待値は19(同、21.5)。その後、14階と25階で3ポイントずつ上昇する機会が与えられるので、期待値は25(同、27.5)となる。
体力ポイントについては、ロックデーモンに挑む前に32階へ上がって泉の水を飲んでおくと、原体力ポイントより4ポイント低い値まで回復するから、期待値は21(同、23.5)。しかし、ロックデーモンの不意打ちによって2ポイントのダメージを受け、さらにNAZLEの呪文を唱えたことで4ポイントの体力を失うため、最終的には期待値15(同、17.5)となってしまう。
クロムの長剣を引き抜くために必要な達成値は25以上であり、2d6で10(リメイク版では7.5)以上を出さなければならない計算になる。とくに旧版では、なかなか厳しい条件のように思えるが、仮に失敗した場合でも“NAEROを唱える”→“逃げだす”を選択すれば、体力が尽きてしまう前に確実に離脱できるので、何度でも再挑戦すればいい。
どうしても成功しない場合は、32階からの階段を下りたところで食事をする(←タウルスの分も含めて、2食分が必要であることに注意)か、旧版ならポーションの所持数にも余裕があるだろうから、とにかく体力を回復させたうえでチャレンジするという手もある。

さて、ここからは余談。この“剣を抜いた者が王となる”というエピソードが、アーサー王伝説に由来するものであることは明白であり、また原作における最強の武器が“エクスカリバー”であることから、その入手に至るシチュエーションを本作で補完しようとして、このイベントが考案された…と、ここまでは想像に難くない。
しかし、この件に付随する形で改めて浮かび上がってきたのが「原作のギルは王国の王子だったのに、なぜ本作では一介の騎士という設定に変わったのか?」という疑問。アーサーは(マーリンの意図によって秘匿されていたとはいえ)紛れもなくペンドラゴン王の血を受け継いだ正統の王子であり、くだんの“剣を抜く”エピソードは飽くまで、その存在を周知させるためのセレモニーに過ぎなかった(←考えてみれば、あれって結局は全部マーリンの自作自演だよな…)。
ゆえに、たとえアーサー王伝説になぞらえるにせよ、本作のギルも──原作の通り──王子という設定のままで問題は無いはずなんだが、敢えて変更した理由は何なのか? これは全く根拠のない憶測だけど、“王子”という肩書きからは“優しい性格のお坊っちゃん”みたいなイメージも連想されるわけで、そういった柔和な印象のキャラクターでは、本作で襲いかかる過酷な試練の数々に立ち向かう様子が想像できなかったからではないだろうか。言い換えるなら(原作のインストラクションカードやボードゲーム版に描かれていた、ソフトタッチで頭身の低いキャラクターデザインが与える“ややユルい”雰囲気とは違って)リアルタッチの挿絵と文章によって脚色された本作においては、主人公であるギルもまた、よりハードな出自を備える必要があったというわけだ。

また、物語は──たとえば、アーキタイプのひとつである「大切なものを失った主人公が、運命に翻弄されつつも成長を遂げ、やがて失ったものを取り戻す」のように──完結を目指すという宿命から逃れられないのに対し、ゲームブックという媒体には、そのような限界は存在しない…むしろ“主人公=読者自身”という構造上、何かを成し遂げたとしても、すぐにまた次の目標を求めることになる。
だからこそ本作のギル(=読者)は、エンディングにおいて、王の地位よりも新たなる冒険を望んだのであり、そのためには“一介の騎士”という身軽な立場のほうが好都合だったとも考えられるな…まぁ“王子じゃない”という基本設定が記された第1巻の時点で、作者がそこまで考えていたかどうかは分からないし、あるいは(さほど深い理由もなかった)“一介の騎士”という設定から、あのエンディングを思いついたと解釈するほうが自然かも知れないけど。
真相は分からないが、ひとつ確かなのは、後付けで行なわれた変更も存在するということ…第1巻では、ギルの一人称は“わたし”で、基本的に(いかにも騎士らしい)丁寧な物腰で話していたのに、第2巻からは一人称が“おれ”に変化し、セリフも(あまり身分の高い人間とは思えないような)フランクなものに変わってるし。これは恐らくタウルスメスロンといった仲間が増えて、いざ彼らと会話するシーンを書こうとしたところ、第1巻のような丁寧な口調では、どうにもしっくり来なかったのではないかと憶測…まぁ、この変更によって“一介の騎士”どころか、もはや“ただの戦士”(笑)みたいなイメージになったおかげで、あのエンディングに説得力が増したのも事実であり、その意味では妥当な判断だったと言えよう。

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